【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第27話 (4/6ページ)
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木戸門横の用水桶の陰に、夢にまで見た男の笑顔があった。頰被りに腕組みをして木戸門の壁に凭れている。
「国芳はん・・・・・・!」
みつは泣きそうな表情で、男の腕に飛び込んだ。
岡本屋のお内儀が奥の内証で休んでいる間に、みつは国芳を二階の自分の部屋に引き入れた。
みつは、わざわざ国芳好みの庶民じみた格好をしていた。浴衣こそ大柄の菊と花七宝の見事な藍の絞り染めで一目で高価と分かるような代物だが、肩には豆てぬぐいを小粋に引っ掛けて、着こなしは素人(じもの)に近い。
髪には赤い絞りを掛け、前髪には銀の一本簪をちゃっと差して横鬢の毛がしどけなく落ちてきているさまもどことなく下町の風情が香った。
「なんで全然来てくれなかったの」
肌膚が紫になるほどに国芳の腕をつねると、国芳は嬉しそうにしながらも謝った。
「悪りい悪りい!父っつぁんが死んでから、色々落ち着かなくってよ」
「豊国師匠の事は残念だったね」
国芳の師である歌川豊国は、今年の一月に亡くなった。それ以来、国芳が吉原遊廓を訪れる事はめっきり減った。
「イヤア、あのクソジジイは充分生きたさ。大往生だろ」
「師匠の傾城水滸伝、すっごく面白かったよ」
「ああ、読んだのか。初編は父っつぁんの遺作だからな。