【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第32話 (6/8ページ)
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「本当だ」
国芳はそれを摘み取り、女の前髪に挿した。
「あたし、国芳はんと出会う前はこの狭い鳥籠(くるわ)の中の事以外は何も知らなかった。本当に何も・・・・・・この、たんぽぽの花の名前すら知らなかった」
「ああ。でも今アもう知ってる。この花の名も、色も、匂いも。みイんな、おみつの手のひらの中にある」
挿した花と同じ、陽の差すような明るい笑顔を女はした。
(やっぱりめえは、たんぽぽみてえな女・・・・・・)
たんぽぽのように優しく可憐で、明るく逞(たくま)しく、そして美しい。
その透きとおった薄墨の瞳を四季折々の花のもとに見つけるたび、国芳は何度でも女に恋をした。
「おみつ」、・・・・・・
「めえが、好きだ」。
国芳は下を向いて、ふと呟いた。
めえじゃなきゃ、わっちゃアただのつまらねえ凧売りのままだった。
国芳は耳まで真っ赤にしながら、ぼそぼそと言った。
「あたしも」。
みつがとろけるように微笑(わら)った。
あたしもあんたじゃなきゃ、ただ色を失くした哀しい女郎のままだった。
「あたしたちは一緒じゃなきゃ、きっと駄目だった」。