【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第32話 (8/8ページ)

Japaaan

 

大野麦風「桜と小鳥」出典JAODBより

 

くちびるを離した後、みつは静かに言った。

 

 

「あたしさっき、一度でいいから国芳はんと同んなじように桜の色を見たかったって言ったでしょう。やっぱりあれ、取り消す」。

 

 

どうして、と国芳はみつの薄墨の瞳を覗き込んだ。

 

 

「だって、国芳はんと出逢って、あたしの心は沢山の色彩で溢れた。それなのにその上自分の目で色を見たいなんて、贅沢すぎるもの。本当に、こうして国芳はんに出逢えただけで、あたし」、

 

 

この時のみつの眩しい笑顔を、国芳は生涯忘れなかった。

 

 

 

「生まれてきてよかった」。・・・・・・

 

 

こういう気持ちを錦絵にするとしたら、どんな風に描き、どんな色彩で摺ればいいのだろう。

 

 

露草色のみずみずしい朝明(あさけ)の風が、二人の間を吹き抜けた。

 

 

国芳の耳元を過ぎる時、その風が永遠と囁いたように聞こえた。

 

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

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