【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第32話 (3/8ページ)
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「なあ、おみつ、聞いてくれ」
いつになく真剣で思い詰めた目をした国芳に、思わずみつは破顔した。
「なあに」
「わっちゃア、仕事で今日以降しばらく来れねえ」、
みつの睫毛が、ほのかに揺れた。
「次がいつになるか、分からねえんだ」。
・・・・・・
「うん」
少しの間の後、みつは微笑んで頷いた。今までもそう頻繁に会えたわけではないし、国芳が売れれば今まで以上に会えなくなる事は自明であった。
「これから取り掛かる仕事は、今までのとは違げエんだ。『水滸伝』の揃物の武者絵だ」
「水滸伝の、武者絵・・・・・・」
国芳「九紋龍史進」Wikipediaより
みつの好きな、水滸伝である。
みつは口の中で噛みしめるように繰り返した。
「こねエだの大勝負の時にゃア一枚一枚手描きで時間もなかったから墨一色だったが、今度は日本橋の歴とした版元から出すからな、それア豪勢な多色刷りになるぜ。とんでもねエ色鮮やかな錦絵にしてみせらア。おみつの目にもその色が見えちまうくれエな。勿論、めえが何刻眺めても飽きねえように、線画もびっちり細かく丁寧に描き込む。