今昔物語集の素敵エピソード!尊すぎる…勘違いから夫婦が復縁、男が思い出した大切なこと (5/7ページ)
「……かくかく云々」
童から事情を聴いた妻は、内心「やっぱりね」と落胆しましたが、大切にとってあった贈り物を返すことにしました。
盥から引き揚げた蛤&海松を上等な陸奥紙(みちのくがみ)に包んで、童に持たせました。
「たとえ勘違いでも、素敵な物が見られて楽しかったわ。ありがとう。主人によろしくね」
「……へぃ、今回はすいやせんでした」
包みを抱えながら、童は男の元へ戻ったのでした。
「……遅かったじゃないか」
さて、童から包みを受け取った男がさっそく中身を検(あらた)めると、そこには男が拾った時そのままの蛤&海松がありました。
「……ん?」
男は脇へ置いた包みの陸奥紙に、何か書きつけてあるのを見つけました。それは、一首の短歌でした。
【原文】「アマノツト ヲモハヌカタニ アリケレバ ミルカイモナク カヘシツルカナ」
(海の苞 想わぬ方に 在りければ 見る甲斐(海松・貝=蛤)もなく 返しつる哉)
【意訳】この素敵な海からの贈り物は、残念ながらわたくし宛てではないようですから、愛でる間もなくお返しいたします。
……その筆跡(て)は、永年連れ添ってきた妻のもの……何だか、男は忍びなくなってしまいました。
「……独り帰りを待つ妻の気持ちを、私はつい忘れていた……」
彼女はいつも、私の好きな花鳥風月を共に愛でてくれた。