「無駄な時間が9割」。でも、その時間が開高健ノンフィクション賞受賞作を生んだ (3/9ページ)
濱野:そうですね。時間をかけて向き合ってきたから、徐々にそうなっていきました。
ズーたちからは、「せっかくドイツに来ているのだし、遊びに行こうよ!観光しようよ!」などとしょっちゅう言われますね。私と遊びたくて仕方ないんですよね。まあ、そんなことをしているとリサーチにならないんですが(笑)。
――その関係性が築けたからこそ、ズーたちの言葉を掬い上げられたのでは?
濱野:そうかもしれません。でも、おそらく端から見れば無駄に思える時間が9割ですよ。
――でも、全然無駄ではなかった。
濱野:無駄にはなりませんでした。とはいえ、現場にいるときはやっぱり不安でしたね。遊んでいるばかりで、何の収穫もないように思えちゃうから(笑)。
でも、彼らが、私との関係性のなかでリラックスしているからこそ、ポロポロっと言ってくれる大事なことがあるんです。それをずっと心に溜めておいて、忘れちゃってもよみがえってくるようにして。もちろんメモもしますが、メモって自分が分かっていることしか書かないので、実はそこまで大きなひらめきを生まないんです。
むしろ大事なのが、記憶の底に眠っている、その時気にも留めなかった言葉です。その言葉が後日ふとした気づきにつながることがある。
――例えばAさんがポロって言った言葉が、別のBさんから出てきたり。
濱野:もちろんそういうこともありますし、ドイツで聞いた言葉を日本に帰ってきてしばらくしてから「あの時そういえばこんなこと言ってたっけ。どういうことなんだろう?」と思い出すこともあるんです。それを次のフィールドワークで確認する。その繰り返しですね。
大事なことはメモではないところに眠っている、という話は往々にしてフィールドワーカーたちが言うことです。もちろんその日何をやったというフィールドノートはつけますが、見返してもあまり発見がないんですよ。