「無駄な時間が9割」。でも、その時間が開高健ノンフィクション賞受賞作を生んだ (5/9ページ)
だからとにかくあなたとしばらく一緒にいるよ、と。ご飯食べておしゃべりして、同じ家で寝させてもらいます、と。
そんな手法なので、問いは最後の最後まで実はぼんやりしていました。
――すごく刺激的です。
濱野:仮説を立ててしまうと、そこに合わせたようなデータを取ってこようとしますよね。それはすごく恣意的なことなんだ、と。フィールドに飛び込んで思い切り混乱してきなさいと言われるんです。そして、ワケがわからない!という状態でフィールドから戻ってきて、いざ論文を書くときに、考えに考えて、最後にいろんなものがつながってくる。
――フィールドでは自分が持っている常識と常に戦っているわけですね。
濱野:まさしくそうです。フィールドでは、とにかく人々と一緒に過ごして、雑談を大事にして、みんなの話をずっと聞いています。それは、一般的なインタビューとは違うんです。
インタビュー調査でQ&A形式にしてしまうと、理路整然とした回答ばかりが得られがちなんですよ。ズーへの質問の場合は、「どういうセックスをするの?」と聞いただけである程度、自分のなかの常識は壊れましたけれど(笑)、しかし、インタビューだけでは、つかみ取れない部分がある。彼らの日常生活に巻き込まれていくと、日々、自分の常識では理解しきれない場面に出会います。混乱に次ぐ混乱なんですが、混乱が大きければ大きいほど、手応えも感じます。混乱のなかに、問いが隠れているはずなので。
――前編にも登場しましたが、ミヒャエルはゼータという動物性愛者団体の中心人物ですよね。50代の男性で、キャシーというメス犬をパートナーにしている。でも他に飼っている猫には名前を付けていない。
濱野:これは謎だったので、その理由を聞いたんです。でも、ミヒャエルからの返事も私にはあんまり納得できるものではなくて。