「無駄な時間が9割」。でも、その時間が開高健ノンフィクション賞受賞作を生んだ (4/9ページ)
私のフィールドノートを見返すと、「今日もクヌーデル(ドイツの家庭料理)だった」とか愚痴が書かれています(笑)。
でも、そんなフィールドノートも、何度もじっくり読み返すことで、記憶を引き出すきっかけにはなるんですね。そこから連鎖して「あ、そういえばこの時はこうだったな」と思い出して、新たな思考が生まれることもある。
『聖なるズー』は本当に豊かに時間を使って書きました。2年調査を行って、修士論文を書いた後で、さらに半年以上かけてノンフィクションとして書き下ろしています。そう思うとすごく時間を使ったなと(笑)。でも、このテーマを人々に伝えるためには、そのくらい時間が必要だったのだと思いますね。
■「文化人類学は、必ずしも仮説が必要ではないという学問なんです」――動物性愛というセクシャリティ研究をすると決めたときに、何かしら仮説であったり、問いであったりというものは持っていたのですか?
濱野:実はですね、文化人類学って調査をする際に必ずしも仮説は必要ではないとされているんです。私自身はそのような指導を受けました。
――えっ!そうなんですか? 現場に行って見つけてこい!というような感じですか。
濱野:そうですね。仮説に沿って調査するのではなく、調査のなかから問題を発見するんです。
リサーチに来ましたと言うと、人々から「質問はなに?」って言われます。でも、そこで私は「申し訳ない。アンソロポロジー(人類学)というのは変な学問で、具体的な問題はリサーチしながら見つけていくんだ。だからたった今あなたに何を聞きたいというのはないんだ」とまず伝えるんですよ(笑)!
――それは面白いですね。ありのままのあなたを見せて、ということですよね。
濱野:そうなんですよ。相手はたいてい「は?」という様子ですけど、私のやり方に慣れてもらうところから始めます。アンソンポロジーは人々と一緒にいながら問題を見つけていく学問なんだと。