「理想の女性」にただ一つ欠けていたもの…源氏物語の正ヒロイン「紫の上」の憂鬱【上】 (3/5ページ)
「紫の ひともと(一本)ゆゑに 武蔵野の
草はみな(皆)がら あはれとぞみる」
※詠み人知らず―『古今和歌集』より。【意訳】
紫草(むらさきぐさ)がただ一本生えているだけで
荒涼たる武蔵野(関東平野)の草原さえ美しく見える【さらに意訳】
ただ一人 あなたがいてくれるだけで
こんな荒んだ世界でさえ、生きる希望が見いだせる
母と死に別れ、憧れの女性と引き裂かれて絶望の淵にあった光源氏が見つけたただ一つの希望。そんな彼女は上記の歌にちなんで「紫の君」と呼ばれるようになったのです。
ちなみに、紫は「ゆかり」とも読めるため、藤壺中宮との「縁(ゆかり)」を保ち続けたい光源氏の思いも込められているそうで、後にその真意を覚ってしまった彼女を苦しめることになるのですが、今は大好きなお兄様と一緒に暮らせることを、無邪気に喜ぶばかりでした。
二人を襲う数々の試練かくして紫を連れて帰った光源氏は、さっそく彼女に「理想の女性」となるよう英才?教育を施しました。
もともと利発だった紫は、真綿が水を吸い込むように才智を備えて生来の美しさを健やかに伸ばしていく中、光源氏の正室・葵の上(あおいのうえ)が祟り殺されてしまいます。