もうおしまいだ…没落士族の悲哀を描いた明治時代の歌舞伎「水天宮利生深川」を紹介 (3/6ページ)
「忝(かたじけな)い……!」
一方、盲目ながら杖をつきつき物乞いに出ていたお雪も、これまたご近所の要次郎(ようじろう)から1円(現代の価値でおよそ5,000円)を恵んでもらいます。
「父上……」
「あぁ、こんな時こそ人の情けが身にしみる……」
これで少しは運が開けると喜んだ幸兵衛父子でしたが、それも束の間。どこからともなくカネの匂いに敏感な高利貸しがやって来て、金子はもちろん、赤ん坊の服さえ剥ぎとって行ってしまいました。
ついに発狂した幸兵衛は……「……もうおしまいだ……」
ささやかな喜びから一転、絶望の淵に沈む幸兵衛父子。隣の家から流れて来る楽し気な清元(きよもと。三味線浄瑠璃)の音が、より一層悲劇感を引き立てます。
「死のう……」
ついに一家心中を決意した幸兵衛でしたが、懐に抱いた我が子のまぁ可愛いこと。その笑顔を見たら、とても死ぬなんて出来ません。