天保水滸伝に登場する笹川繁蔵こと岩瀬繁蔵の不慮な死と死後の偶然 (1/8ページ)
過去の前例や一般的な常識からすると、到底叶わない偉業を成し遂げる。悲劇的な大事故で奇跡的に一命を取りとめる。株取引やギャンブル、宝くじなどで、まさかの一攫千金を手に入れる。一方、その反対に、その日に限って別の道を通った。寝坊した。忘れ物を取りに自宅に引き返した…などの偶然によって、普段の生活通りであれば決して巻き込まれることのない事件事故の犠牲になってしまう。
これらのような極端な事例でなくても、多くの人は幸運/不運をどうしても気にしてしまいがちだ。それはしょせん、通常の「起承転結」の「理屈」では説明できない偶然、または想定外の出来事に対して、「幸運」「不運」といった枠組みを用いて理解、または納得しようとする人間の心の動き…でしかない。とはいえ、必ずしも自分自身が当事者ではなく、更にそれが「幸運」であればまだしも、「不運」または「悪運」の場合は、「確かにそれはそうなんだが…だけど…」という、ある種の「すっきりしない気持ち」が残ってしまう。
■天保水滸伝とは
このように、すっきりしない。または「何とかならなかったのか」といったことは枚挙にいとまがないのだが、今回は江戸末期の実録本『天保水滸伝(てんぽうすいこでん)』(1850年)に登場する親分・笹川繁蔵(ささがわのしげぞう)こと岩瀬繁蔵(1810?〜1847)の不慮の死と、死後の不思議な偶然を取り上げる。
『天保水滸伝』とは、中国の四大奇書のひとつに数えられる、個性豊かな無頼派の豪傑たちが大活躍する長編小説『水滸伝』(15世紀成立)を模したもので、実際に起こった、利根川下流域における侠客同士の争いを取材した、江戸の講談師・宝井琴凌(たからいきんりょう、1827〜1869)によってまとめられたものが始まりとされる。
その後、三代目歌川豊国(1786〜1865)によって、当時の人気歌舞伎役者の似顔で『天保水滸伝』の侠客たちを描いた揃いものの浮世絵、『近世水滸伝』(1862年)が刊行された。