見守るとはどういうことか 宮本武蔵は細川家をどのように見守ったか (7/7ページ)

心に残る家族葬

それに加え、臨済宗妙心寺派であった泰勝寺で禅の修養も行い、「二天」の法号も賜った。そして自分の人生の総まとめをすべく、『五輪書』をしたためていた。しかしたった1年ほどで手足がしびれるなど、病が重篤となっていた武蔵は、それを聞き知った忠利の長男で三代目藩主となっていた光尚の命によって、城下に連れ戻された。しかし、武蔵の快癒は叶わなかった。

■宮本武蔵の遺言といわれる獨行道とは

武蔵が最後に残した「獨行道」は以下の通りである。

 一 世々の道そむく事なし(世間のあらゆる時代の全ての道にそむくことはない)

 一 身に楽しみをたくまず(個人の楽しみを追求しない)

 一 よろづ依怙(いこ)の心なし(全てに偏った心を持たない)

 一 身をあさく思ひ世を深く思ふ(自分を軽く思い、世の中を深く思う)

 一 一生の間よくしん思はず(一生の間、欲心を抱かない)

 一 我事において後悔せず(自分のことを後悔しない)

 一 善悪に他をねたむ心なし(いいこと悪いこと、他人を妬む心はない)

 一 いづれの道にもわかれをかなしまず(どんな道でも別れを悲しまない)

 一 自他共うらみかこつ心なし(自分にも他人にも、恨み嘆く心はない)

 一 れんぼの道思ひよるこころなし(恋慕の気持ちを思い巡らせる心はない)

 一 物毎にすきこのむ事なし(物事の好みはない)

 一 私宅においてのぞむ心なし(自分の家に望みはない)

 一 身ひとつに美食を好まず(我が身ひとつであるため、美食を好まない)

 一 末々什物となる古き道具所持せず(後の世で貴重品となる古道具は持っていない)

 一 わかみ(原文ママ)にいたり物いみする事なし(自分の道を極めるために、死や禍々しいことを避けるようなことはない)

 一 兵具は格別よ(原文ママ)の道具たしなまず(兵具は特別なものを使わない)

 一 道においては死をいとわず思ふ(自分の兵法の道においては、死を厭うことはない)

 一 老身に財宝所領もとむる心なし(老いの身の自分には、財宝や所領を求める心はない)

  一 仏神は尊し仏神をたのまず(仏神は尊いが、仏神に頼ることはない)

 一 身を捨ても(原文ママ)名利(みょうり)はすてず(自分自身の命を捨てても、自分の栄誉を捨てることはない)

  一 常に兵法の道をはなれず(常に兵法の道から離れない)

■宮本武蔵の見守りとは

このような「重い」、「堅牢」な心、そして恩義を忘れずに感謝していた武蔵から「見守られていた」熊本藩の人々は、本当に「守られていた」のだろう。しかも、大政奉還後の明治10(1877)年、薩摩の西郷隆盛(1828〜1877)が挙兵した西南戦争の折に熊本隊を結成し、その副隊長に就任した松浦新吉郎(しんきちろう、1828〜1877)という志士がいた。半年以上続いた戦いは最終的に、官軍側の勝利に終わった。新吉郎は長崎で刑死することになったのだが、「武蔵塚で眠りたい」という遺言から、武蔵塚公園の裏手の墓所に眠っている。武蔵のようにあろうとした新吉郎も、武蔵のそばに仕え、「見守っている」のだろう。

幕藩体制は155年前に崩壊し、見守るべき対象を失って久しい武蔵だが、果たして武蔵は令和の今、何を、誰を見守ってくれているのだろうか。旧熊本藩が治めた「場所」の地霊(ゲニウス・ロキ genius loci)となって、人々の発展や幸福を祈ってくれていると信じたい。

■参考資料

■宮本武蔵遺蹟顕彰會(編)『宮本武蔵』1909年 金港堂書籍
■高山菊次(編)『宮本武蔵遺稿 原本五輪書』1939年 教材社
■紫藤誠也「宮本武蔵の『独行道』」九州大学国語国文学会(編)『語文研究』24号 1967年10月(21-41頁)九州大学国語国文学会
■荒木精之『熊本歴史散歩 城下町の変遷』1972年 創元社
■「ドリフ大爆笑:過去の放送 #65『戦い』」『BSフジ』1984年2月28日放送 
■島田貞一「宮本武蔵」国史大辞典編集委員会(編)『国史大辞典』第13巻 1992年(505-506頁)吉川弘文館
■「北九州に強くなろうシリーズ No.15 手向山の「小倉碑文」で読む 剣聖武蔵と養子伊織」『博多・北九州に強くなろう』通巻88号 2003年6月 西日本シティ銀行
■山本博文(監修)『江戸時代人名控 1000』2007年 小学館
■入野信照(監修)『学校で教えない教科書 面白いほどわかる 五輪書』2009年 日本文芸社
■熊本県高等学校地歴・公民科研究会日本史部会(編)『歴史散歩 13 熊本県の歴史散歩』2010年 山川出版社
■渡辺誠『[新訳]五輪書 自己を磨き、人生に克つためのヒント』2010年 PHP研究所
■新井邦弘(編)『歴史群像シリーズ特別編集 【決定版】図説 侍入門 江戸下級武士を知る手引き』2011年 学研パブリッシング
■芳賀靖彦(編)『学研まんが NEWS日本の歴史 別巻 人物学習事典』2013/2015年 学研プラス
■奥山景布子(著)・RICCA(絵)『伝記シリーズ 大江戸ヒーローズ!! 宮本武蔵・大石内蔵助……信じる道を走りぬいた7人!』2016年 集英社
■魚住孝至「剣豪・宮本武蔵:その実像と『五輪書』に見る兵法思想」『nippon.com』2019年6月13日
■「五輪書」『日本古典文学摘集』2019年5月1日  
■魚住孝至『NHK「100分 de 名著」ブックス 宮本武蔵『五輪書』 わが道を生きる』2021年 NHK出版
■「コンセントにさすだけの「孤独死防止・見守りシステム」新発売 エストから月額330円、毎日のチェック不要で携帯やLINEに通知」『ロボスタ』2022年9月2日
■「70年前の火災耐えた奇跡の「見守り桜」 今年度中に伐採予定 長野・飯島小」『長野日報』2022年9月6日
■「シリーズ熊本偉人伝 Vol.1 宮本武蔵」(『旅ムック』67号掲載)『季刊旅ムック.com 熊本』
■『武蔵継承 兵法二天一流
■「武蔵塚公園」『ニッポン旅マガジン』
■「武蔵塚公園」『熊本市観光ガイド』
■「西の武蔵塚」『熊本市観光ガイド』
■「立田自然公園」『熊本市観光ガイド』
■「武蔵の墓」『るるぶ&more』

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