『べらぼう』明暗分かれた“桜”…田沼意知と誰袖の幸せな桜と、追い詰められ悲劇を招いた佐野の枯れ桜【後編】 (4/8ページ)
たぶん幼少の頃から、姉妹ばかりのなかでたった一人の“息子”だったゆえ、父親から激重な期待とプレッシャーをかけ続けられてきたのではないでしょうか。父親は認知症になってから、さらに政言への接し方がきつくなったような感じがします。
これでは、精神的に疲弊し追い詰められていくのも不思議ではありません。
幸せと不幸が層になって同時に描かれていく田沼の屋敷を訪れ「家系図を返せ!」と声を荒げる父親を制して平謝りをした時、政言が意知の顔をチラリと見たのが印象的でした。
そこに宿った思いは、嫉妬か、申し訳なさか、佐野家が田沼家にどう捉えられてしまったかという懸念か、意次のような父親がいてうらやましいという思いか……いずれも当てはまるような複雑な表情だったと思います。
意知に、将軍の鷹狩りのお供をする段取りをつけてもらいつつも、獲物が見当たらないため評価されず落ち込み、さらにそれを「田沼が隠した」と陰口を告げに来た人物にすっかり嵌められと、さまざまなことが起こりました。
意知を信じたい気持ちと自分が利用されているのかもと疑う気持ちの間で揺れている佐野は、彼を利用して田沼を失脚させようと企むものにとっては格好の標的でした。
少しずつ耳に入ってくる悪い噂や誇張されたデマに、次第に気持ちは蝕まれていく。
そんな状況のとき、さも親切心からというていで近づいてきて、田沼親子の悪口を吹き込んだのが、「丈右衛門だった男」(矢野聖人)でした。
そう、「丈右衛門だった男」は平賀源内(安田顕)が罠に嵌められ投獄されることになった事件のときにも、源内に薬物を摂取させ一緒に罠にはめた男を口封じのため、あっさり斬り捨ててた、あの男です。
「佐野の威落とした鴨を意知が隠したところを見た」「佐野家が田沼家に送った桜が、田沼が神社に寄進して『田沼の桜』として評判だ」など、田沼が佐野家を陥れようとしていると言うネタを次々に吹き込んでいきます。