支援者を装ったスパイ行為も… 違法スレスレの“選挙対策”とは?

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議員の椅子をめぐり激しい工作合戦が展開している!
議員の椅子をめぐり激しい工作合戦が展開している!

【朝倉秀雄の永田町炎上】

 2014年12月14日に投開票を迎える衆議院議員選挙。終盤に差し掛かり、1票でも多く獲得するために候補者とその支援者が奔走しているが、それはあくまでも「表」の選挙運動だ。どの陣営も、「裏」の活動にも余念がないことは確実。俗にいう「裏選対」の実態とは。

公然と行なわれる「選挙違反」

 およそ選挙ほど人間の欲望を剥き出しにし、邪な本性を露わにする場面はない。候補者はもちろん、その取り巻きまでがいくつかの陣営に分かれて、どんな手を使っても相手を蹴落とし、「センセイ」と呼ばれる快適な地位を得、あるいは返り咲こうと狂奔する。そのためには、法律など守らない。

 例えば、候補者や運動員が一軒ごとに訪問して投票を依頼する「戸別訪問」は公職選挙法で禁止され、違反すれば1年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処せられるが、「ローラー作戦」などと称して公然と行なわれているのが実情だ。

「どぶ板選挙」というのは、違法な戸別訪問を中心にした選挙運動の手法のことだ。公営掲示場以外の電柱などにポスターを貼るのはまだ可愛いもので、票が競っていれば、実弾(=現金)さえぶち込む。もちろん、これも法律違反。そんなヤバい選挙運動の司令塔が、いわゆる「裏選対」である。

選挙事務所とは別に「裏選対」の拠点を設ける

 衆議院総選挙では、選挙事務所は原則として1カ所に限られる。これが街頭演説や個人演説会などの「表」の選挙運動の拠点であり司令塔であるわけだが、誰でも自由に出入りできるから、支援者を装った敵陣営のスパイが入り込むのも常識だ。カネにものを言わせて当選を目指す金権選挙など選挙違反の常習者だと、刑事が猟犬のように様子を伺っていることもある。

 そうなると、訪れた者に茶菓子以外の弁当を振る舞うことさえできない。すかさず警察や県の選挙管理委員会にタレ込まれるからだ。筆者は役人時代、選挙管理委員会の書記を務めたことがあるが、「どこどこの畑の中に勝手に掲示場を作ってポスターを貼っている」とか、「自治会長が住民たちを集め、飲み食いさせて投票依頼をしている。すぐにやめさせろ」などといったタレ込みを受けて、同僚と一緒に現場に急行したものである。

 その点、表に出ない「裏選対」なら、どんな悪質なこともできる。

 裏選対は、それとはわからない民家やビルの一室などに拠点を置くのが普通だが、たとえ発覚しても「俺たちは候補者とはいっさい関係がねえ」と言い張り、うまく行けば連座制を免れることができる。

 違法ではない「電話作戦」に使うことが多いが、候補者によっては、怪文書によるデマ流しはもちろん、強面のヤクザを使っての投票依頼もする。買収資金を管理するのも裏選対の役目だ。

偽親族からスパイまで入り乱れる工作合戦

 戸別訪問自体も違法だが、さらに悪質なのは、まったくの赤の他人が選挙のときだけ候補者の兄弟姉妹やいとこになりすます、いわゆる「偽親族」だろう。人間というのは単純だから、候補者自身や奥さんなどが直接訪ねてくるだけで感激し、票を入れる気になる。されど、候補者の家族、親戚には限りがあるから、選挙区内の家々をくまなく回ることなどできない。そこで、何十人もの「偽親族」をデッチ上げ、手分けして戸別訪問させるわけだ。

 かつて筆者は、ある大物議員の応援に入らせられ、偽親族と一緒に戸別訪問をさせられたことがあるが、単なる支持者の女房がそのときだけは「候補者のいとこ」なのだから、笑いを堪えるのに苦労したものである。

最も悪質なのは「オトリ」と「寝返り」

 選挙になると、そのときだけ秘書になりすます「幽霊秘書」や、買収工作をした後、警察の手に落ちる前に行方をくらます「雲隠れ秘書」などといった怪しげな連中が跳梁跋扈するが、なかでも最も悪質なのは、公選法の「連座制」を悪用した「オトリ」だろう。

「オトリ」の目的は、候補者からカネをもらって、地域主宰者や組織的選挙運動主宰者などとして敵陣営に入り込み、わざと買収などの選挙違反をやらかし、警察に捕まって候補者の当選を向こうにしてしまうことにある。一方で、相手方の提供する大金に目が眩み、途中からオトリに豹変する「寝返り」もまたたちが悪い。

 注意しなければならないのは、「オトリ」や「寝返り」がバレると連座制は適用されず、敵陣営にダメージを与えることができないという点だ。キッチリと本来の目的を遂行して“成功報酬”を懐に入れるためには、警察や検事の取り調べでは絶対に真実がバレないようにしなければならない。選挙でカネを儲けるには、熟練した技術と胆力が必要なのだ。

腹心によるまさかのタレ込みで失脚も

 有権者にカネをバラ撒くことが「買収」にあたる——ということは誰でも知っているが、つい犯してしまうのが、学生アルバイトなどに報酬を払う「運動員買収罪」だ。選挙運動は「無償」が原則であり、報酬を支払ってもよいのはウグイス嬢、事務員、労務者、手話通訳者だけだが、誰もタダ働きなどしたくないというのが人情だろう。

 筆者も選挙の応援に入ったことがあるが、交通費や昼飯代に身銭を切るのが実に馬鹿らしく、事務局長に「カネを払え」と要求したものだ。選挙実務では、ほとぼりが覚めた頃を見計らって払うのが常套手段で、筆者も後で端金をもらったが、スパイなどが入り込んでいるとバレることもある。

 筆者は過去に与野党、衆参合わせて8名の議員に仕えたが、うち2人が学生アルバイトに報酬を払ったことが発覚し、1人は警察に捕まり、もう1人も引退に追い込まれている。

 恐ろしいのは、この2つのケースとも、腹心の選挙対策本部長だった県議が警察にタレ込んで発覚したという点だ。なぜそんな裏切り行為を働くのかといえば——自分が国政に出たいから、現職を「潰しにかかった」のである。

 選挙というのはやはり、人間の私利私欲が渦巻く「泥仕合」だ。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。

(Photo by Dick Thomas Johnson via flickr)

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