川崎火災事件で見えたドヤ街事情「放火や刃傷沙汰は日常茶飯事」

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川崎・簡易宿泊施設の火災現場(写真/村田らむ)
川崎・簡易宿泊施設の火災現場(写真/村田らむ)

 5月17日未明、川崎市日進町にある簡易宿泊施設、いわゆるドヤから出火して9人が亡くなった。

 ドヤとは、簡易宿泊所のことで、主に日雇い労働者などが泊まっている。連泊して、アパートのように利用する人も多いが、名前など身分を明かさない人が多いので、いまだ9人中3人しか身元が分かっていないという(5月25日現在)。

 こうしたドヤの多くは違法建設で、非常階段などが設置されていない建物が多い。出火した以前に住んでいたという老人に話を聞くと

「ベニヤ板で出来たような家だから燃えて当然だよ。むしろよくいままで燃えなかったなって感じ。役所は昔から、ドヤを潰したいと思っていたんだ。正直な話。今回、燃えてちょうどよかったと思ってるんじゃないか?」

 とえらく物騒なことを言われた。

 5月25日の段階ではハッキリしたことは分からなかったが、

「灯油の臭いがした」
「直前に言い争う声が聞こえた」
「金の貸し借りで追い出された人がいた」

 など、放火を疑う声も聞こえてきた。

 今回、出火元となった建物の周りには、未だ50軒ほどのドヤが林立している。事件から一週間経って訪れたが、未だにテレビ局、出版社、警察の人たちが聞き込みで歩きまわり、ものものしい雰囲気がただよっていた。

 ドヤ街は他地区には、東京の山谷、横浜の寿町、大阪の西成などがあるが、どこも治安は良くない。酔っ払って住人同士のケンカが起こることはしょっちゅうあるし、そこから刃傷沙汰に発展することも珍しくない。

歩いていたら果物ナイフを突きつけられる

 筆者も取材の過程で、川崎のドヤに宿泊したことがあるのだが、管理人が宿泊者(もはや住人)の老人に対して、大音量で罵る声が延々聞こえてきて、つくづくウンザリした。横浜寿町のドヤは枕がシラミだらけだったし、東京山谷では歩いていたら酒に酔ったオッサンに果物ナイフを突きつけられた。

 役所としては、今回の事件をふまえて、現在川崎のドヤに住んでいる人たちに「この機会にドヤを出て、アパートできちんと生活しませんか?」と提案しているという。

 簡単にアパートに引っ越すことができれば良いが、金銭的な都合などで、できない人もいるだろう。そういう人はどこに行くのか、住人に聞いてみると、

「多摩川の河川敷に行けばいいんじゃないの? 夢の一戸建てに住めるよ」

 と言って笑った。

 事件があった簡易宿泊施設地帯から、北東に1キロほど行くと、多摩川にたどり着く。河川敷にはホームレスのテントが建てられている。見てくれは悪いが、構造はしっかりしていて、住むには問題なさそうだ。確かに、ドヤ街に住むより、こちらの方が、治安が良さそうだ。住人のホームレスに話を聞いてみると、

「そんなことねえよ。河川敷は危ないよ。すごい暴力受けるよ。オレは中学生くらいの子供に火をつけられたことがある。小屋も燃えるし、ヤケドもしたし、しかたがないから、川崎警察署に訴えたんだけど『ホームレスのくだらない事件に関わっているヒマはねえ!!』って怒鳴られて、追い返されたよ。警察なんか二度と頼らない」

 と憤慨していた。

「ここらへんは結構、暴力事件あるんだ。この道をしばらく歩いたらよく分かるから」

 と言われた。

 何が分かるのだろう? と思いながら、河川敷を歩いていくと、花束の山に遭遇した。遺影が飾られ、線香が焚かれている。2015年2月20日、中学1年の上村遼太君が18歳の少年らに、カッターナイフで首を切られるなどして、殺害された現場だった。

 2015年上半期に起きた大事件が、こんな近い場所で起きていたのか……と驚きを隠せなかった。

 貧困層が日々安全に暮らせる場所を見つけるのは、とても難しい。

(取材・文/村田らむ)

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