東海道新幹線“焼身自殺”で崩壊する安全神話…鉄道の防犯・防災対策は十分か
東海道新幹線の車内でガソリンを撒いて焼身自殺を図る。そんなドラマや映画で起きるような事件が、6月30日に現実化してしまった。
事件は東京発新大阪行きの新幹線車内で起きた。ガソリンを撒いた男性は死亡。乗客一人を巻き込む惨事となった。当該新幹線では車両の延焼被害はほとんどなく、安全確認後に小田原駅まで自走して乗客を降ろしている。
新幹線をはじめ日本の鉄道車両は不燃化対策が進められている。それらが奏功し、今回の事件で車両はほとんど燃えなかった。
そうしたことを踏まえれば、日本の鉄道は世界一安全と言えるかもしれない。車両をはじめ、線路や架線といったハードインフラは万全な防犯・防災体制が築かれている。だからと言って、今回の事件の教訓にして、対策を講じないわけにはいかない。
手荷物検査もスプリンクラー設置も
今後、鉄道がテロの標的になる可能性は十分にある。それだけに事件の対策を練ることになるが、法律をはじめソフト面での安全対策は今後の課題となる。ある鉄道雑誌編集者はこう指摘する。
「1995年には地下鉄サリン事件が起きています。これが、鉄道の安全を考える大きなターニングポイントのひとつ。サリン事件以降、車内や駅構内の不審物は無暗に触らないようにアナウンスが流されるようになり、ポスターの掲示で注意喚起されるようになりました」
今回の事件では、新幹線の乗客に手荷物検査を実施するような意見も一部から出ている。東海道新幹線は1日に45万人もの利用者がおり、それらの人たちの荷物をチェックすることは物理的に難しい。さらに、東海道新幹線だけではなく山手線や東海道本線などに範囲を広げたら、とても通勤ラッシュに対応できない。手荷物検査は非現実的な話だ。
海外では車両火災やテロに備えて、スプリンクラーを設置している車両もある。しかし、スプリンクラーを設置すれば、その分だけ車両は重くなり、新幹線の持ち味であるスピードは殺される。所要時間にも大きく影響を及ぼすことになるだろう。
現在、鉄道会社ではこうした防災・防犯で車両や什器類の不燃化を進めることで被害を最小限に抑えるぐらいしか対策がない。持ち込ませない対策は打つ手がない状況だ。
また、危険なのは車両内だけではない。駅構内も人の往来が多いので、どうしても犯罪が起きやすくなる。現在、鉄道各社は防犯カメラなどを設置するなどして、駅構内の治安対策に努めているが、スキだらけだ。
2020年には東京オリンピックが開催される。海外から多くの外国人が来日するだろう。それらの多くは純粋な観光客だが、オリンピックに乗じてテロリストが入り込む危険性は否定できない。
「今回のような事件や事故が起きると鉄道各社は安全対策を講じます。それらの積み重ねが、今の安全な鉄道運行につながっているわけです。それでも、事故や事件は起きてしまう。駅には消火器やAEDが設置されていますから、よく利用する駅は避難経路や緊急停車ボタン、消化器やAEDの設置場所も確認しておくことが大事です」(前出・鉄道雑誌編集者)
普段は何気なく乗っている電車は安全で事故や事件に巻き込まれると思って乗車している人は皆無だろう。しかし、思わぬところで事件や事故は起きるし、被害に遭うこともある。今回の事件は稀なケースだろうが、それでも万が一に備えておきたい。
(取材・文/小川裕夫)