「第155回芥川賞」候補作を全部読んでガチで受賞予想してみた (4/7ページ)
読みどころ
平易な語り口で独特のユーモアを持ち、どこか間の抜けたゆるい空気をつくりながらも、主人公の苛立ちや、表層的にしかものを見ない両親、それを容易に見抜いて大人を「利用」する子どもたちの無邪気な悪意が痛烈に描かれている秀作です。この小説が「のりたま」ではなく「あひる」と題されているのは、ひとやものを個別の名前として認識するのではなく、それが属する枠組みだけで認識しているということへの皮肉かもしれません。
選考でのポイント
物語の親しみやすさと不気味さのギャップが、この小説を評価する最大のポイントになるのではないかと考えます。内容についても非常に優れていると感じるのですが、続く3作に比べると質・量ともに見劣りします。
「美しい距離」山崎ナオコーラ(文學界3月号)
あらすじ
40代で大病を患い、余命がもう幾ばくもない妻を看取る小説。妻が死ぬその日のためではない、妻との「この瞬間」をなによりも大事にしたい主人公は他者と妻の距離に辟易する。だれもかれもが、「仕事相手」「親族」「患者」といった属性でしか妻を見ていない。そしてとりわけ主人公に嫌悪をもたらすのが「余命」。これにより主人公は他人によって妻の生を勝手にありふれた物語とされてしまうことに抗いたい意思を持つ。
読みどころ
「余命という物語を使うことなく、ひとの生き死にと向き合う」という主題を全面的に押し出しながらも、ドラマチックな展開を一切使わず書ききった点が見事な作品です。ひとや物事の一面だけを見て、勝手に想像し、勝手に共感するということが、妙な言い方ではあるのですが「想像力が排除された文章」として、緻密に構成されています。