「第155回芥川賞」候補作を全部読んでガチで受賞予想してみた (5/7ページ)

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選考でのポイント
扱っている内容の大きさ、切実さを高く評価する選考委員が一人はいるのではないかと思います。ただ、冒頭と最後に安易な感傷に頼った謎の宇宙ポエム(!?)が入ったり、どう見ても性格の悪いおっさんの愚痴をひたすら聞かされているようにしか感じられない部分があったりと、看過できないものも含まれているのが残念。

「ジニのパズル」崔実(群像6月号)

あらすじ
東京、ハワイ、オレゴンと各地の学校を追い出されてきたジニが、自らのホームを探す追憶の物語。在日朝鮮人として生まれ、中学から朝鮮学校へ通うことになったジニは、そこではじめて国境というものを自覚する。日本にいながら学校では呪文にしか聞こえない朝鮮語にさらされ、教室には金日成と金正日の写真が飾られている。

この異質さがジニの居心地の悪さであり、そしてそれは自分の力ではどうすることもできない「空が落ちてくる」ような危機でもある。テポドンの発射を機に、卑劣な男からジニは暴行を受ける。こんな腐った奴にも私は勝てない、革命でも起きない限り自分たちがさらされる環境は変わらないと確信し、ジニは革命を誓う。

読みどころ
ジニのパズル
日本の小説らしくない感覚が光る崔実のデビュー作。「パズル」というタイトルで表されているように、途切れ途切れの散文が、徐々に大きな物語をつくり上げていくような構成をとっています。「日本の小説らしくない」というのは、主人公が晒される外国語の環境であり、生まれの問題に由来するものと感じられます。とりわけ、この小説では主人公が身を置く土地ではなく、海の向こうで起こることに対して物語が敏感に影響を受ける独特の知覚が文章の個性として顕著に現れています。

選考でのポイント
今回の台風の目となる作品。候補作のなかで、最も完成度が低く、荒々しいつくりの小説ではあるのですが、ずば抜けて「訴える」という力強さを持ち合わせています。
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