『べらぼう』ていの家出に瀬川の名シーンが重なる…蔦重を巡る“三人の女”に隠された真意【前編】 (3/8ページ)
それは、とりも直さず、“蔦重への恋心の芽生え”を自覚したからではないでしょうか。
ていの置き手紙は、「御暇を頂戴したう存じまする」ではじまり、「こころより御祈念もうし上候」と、かたい文章で書かれています。その文字も漢籍を勉強しているせいなのか、一文字一文字がカッチリと書かれているのが、いかにも“ていらしい”手紙でした。
一方、記憶に残っている人も多いと思いますが、瀬川の手紙は
「顔を見ると行けなくなりそうだから。だからもう行くね。…いつの日もわっちを守り続けてくれたその思い。長い長い初恋を、ありがた山のとんびからす」……
「おさらばえ」には泣けましたね。文体も流れるような柔らかい文字も、地口を入れてくる江戸っ子らしさも、いかにも瀬川らしい手紙でした。
同じ「置き手紙をして蔦重の元を去る」という行為ながら、手紙の文字や文体によって、二人の女性のキャラクターの違いを浮き彫りにした演出。
蔦重は、出家するつもりで寺に来たていを追いかけ、門前で捕まえます。以前「店を畳んだら出家するつもりだった」と胸のうちを明かしていたのを覚えていたからです。
「江戸一の利き者の妻は私では務まらぬと存じます。私は石頭のつまらぬ女です。