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【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第27話みつは目が光に弱いという理由で、白昼外に出る際にはかならず手ぬぐいを吹き流しに被る。布の端を軽く口に咥えると、玉虫色の下くちびるが日光にてらりと光るのが際立って美しかった。
「あ」
道の途中でみつが突然駆け出し路傍に屈み、何かを取って戻ってきた。
「どうした?」
国芳が訊くと、
「鬼灯(ほおずき)」。
ふっくら柔らかな女の手のひらに、提灯のようによく膨れた黄丹色の実が一つ、乗せられていた。
「よく熟れてら」
「熟れていないと、笛に出来ないの」
「へえ」
「色が見えなくても、匂いや感触で分かるわ」
みつはニコニコして、
「笛、やった事ある?」
「やんねえよ。そんなの、女児の遊びだろ」
国芳は首を横に振った。国芳にとっては、鬼灯は縁日のものである。浅草観音の鬼灯市や、茅場町の薬師堂の前の植木市で、鬼灯の実を十個竹串に差した十差というのが売られ、それを女子が嬉しそうに持って歩く。