【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第28話 (9/13ページ)

Japaaan

寛政の改革のほとぼりが冷めた頃から、それまでの反動のように、英泉は描いた。春画、黄表紙、それを合わせた合巻。英泉は一人で文を書き挿絵を添えてまで、寛政期に松平定信によって禁じられたそれらを作り続けた。人の色を好むは、何者にも止められはしない。例え相手が公儀であったとしても。そう信じて描き続けた英泉の濃艶な春画や好色本は、国芳をはじめとする色盛りの青少年たちには宝のように輝いて見えた。国芳はなおも語る。

「『恋の操(こいのあやつり)』はとても良かった!あの時わっちゃア血気盛りの二十歳前で、擦り切れるほど読みました。でもやっぱり『春野薄雪(はるのうすゆき)』はいっち良い。大田南畝先生の文も良けりゃア英泉師匠の絵も傑作ときた。一人の男に良い女が四人も乱れ狂う花清宮の絵なんざ、下手くそなりに綺麗に写して壁に飾ったもんです。アアそれから、『閨中紀聞枕文庫』は・・・・・・」

「分かった分かった。あーたも、けしからねえ好き者という事アよっく分かった。そんなら、あーしの為と思ってあーしにこの女を買わせちゃくれねえか」

「でも、そのお隣にいる花魁は英泉師匠の馴染みじゃありやせんか」

「それが違うのさ」

英泉が隣に連れていた女の頬を撫ぜながら言った。

「この朝霞は、あくまで絵師としての付き合いよ。あーしゃア朝霞を含め吉原女郎を抱いたためしアねえ。他の男に抱かれる姿を、ひたすら描くのよ」

ふふふ、と朝霞花魁が陰翳のある微笑みをした。

「ならなんで、おみつの馴染みになろうなんざ・・・・・・」

「見た瞬間とぉんと来たからさ。どうだい、手ぬぐいを吹き流しにかぶったこの姿は最高じゃねえか。吉原女郎なのに綺羅で飾らず、まるで素人(じもの)みてえだ。惚れたぜ。あーしゃアこの人の馴染みになる。金なら余ってるよ。ちょうど来月一日は八朔だから、盛大にやろう。豪勢な白無垢を用意して、道中の話もつけてやろう。悪りい話じゃねえだろう。

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