【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第28話 (3/13ページ)
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「好いた人と二人で食べると、かならず結ばれるんだって」。
いかにも女の好みそうな売り文句だ。みつが見世を目にして子どものようにはしゃいでいる視線の先に、なるほど女郎とその連れの男が何組かたむろしている。
「人気なんだな」
ほう、と国芳は腕組みして感心した。葦簀張(よしずば)りの小さな見世にはせっせと餅を焼く若い男と、客相手に夫婦になれた喜びの笑顔をめいっぱい振りまく姐やんがいた。
姐やんは鳴海絞の浴衣に黒緞子の帯、紺絣に萌葱の糸真田の紐をつけた前垂をしめ、帯の後ろに扇を差して髪は櫛巻きの小意気な姿でりんりん働いている。
(吉原にも、こんな場所があるのか)
国芳は不思議な、温かい気持ちになった。
「紫ちゃん!」
みつが近づくと、姐やんはそれに気付いて愛想よく手を振ってきた。 江戸町の見世の花魁だったというだけあって、年増ではあるが遠目にも目鼻のはっきりした美人である。
「姐やん!」
みつは弾むように駆け寄り、二人は手のひらを合わせて喜んだ。すっかり顔馴染みの様子で、今日は暑いねえなどと言いあっている。
(なんだ、知り合いか。・・・・・・)
国芳が後からゆるりと付いてゆくと、
「ねえ、彼が、紫ちゃんのいい人?」
「ふふ。やだ姐やん、声が大っきいよ」
こっそり国芳を指を指した姐やんに、みつはこくんと頷いた。
「あれまあ、なかなか好い男じゃないの」
絽縮緬を裾まくりして片足覗かせた国芳の姿を見て、姐やんはニコニコした。