【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第28話 (4/13ページ)
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絽縮緬はよく見ると裾の方に流水に水草の模様が浮かんでおり、歩くと清風が吹き抜けるような涼やかさだ。実は着道楽の佐吉に譲ってもらったお古である。
「良かったね国芳はん。大見世の花魁だった姐やんが好い男だって!」
「へッ、おだてと畚(もっこ)にゃ乗らねえよ」
国芳は口を尖らせたが、顔は照れ臭さで真っ赤になっている。
「嬉しいんなら素直に喜びなさいよ!」
みつが国芳の肩をバシンと叩くと姐やんは笑って、あんころ餅をもう一つずつおまけしてくれた。
「また二人で来ておくんなさいな。きっとだよ」
「ありがとう、姐やん。さ、国芳はん、そこで食べちまいましょ」
みつは床几を指した。
先に腰掛けた一組に断りを入れ、二人並んで腰掛け、同時に餅を口に運んだ。
「うめえ!やっぱり焼き立てだな!」
国芳はあんと餅の甘みを舌の上で転がしながら、感激して声を上げた。みつも、二人で味わう餅の美味しさにとろけるような微笑をこぼした。
「なあ、みつ。案外あんなのも、いいかもな」
目の先のあんころ餅屋を指して、国芳はにこにこした。
「え?」
「わっちが浮世絵で一発当てたら、めえを身請けして向島のあたりに所帯を持つ。そんでもって浮世絵稼業の傍ら、桜の季節にゃ大川の土手っぱらにあんな風に餅屋を開くんだ。わっちが餅焼いて、めえが見世っ先に立ちゃ、たちまち大繁盛だぜ」
「何それ、幾代餅みたい」
「ははは!でも、そんなのも悪くねえだろ。めえとならさ」
国芳が白い歯を見せて笑った。