【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第28話 (8/13ページ)
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小説
「美人大首絵」メトロポリタン美術館
これが今の退廃した時代に大いに受け、今や地本問屋の店頭には、歌麿や英山に取って代わって英泉が並んでいる。
「本当に、あの渓斎英泉か!?」
「ちょいとあーた、声が大きいよ」
善と呼ばれた男はケケケッと奇妙な笑い声を立て、どれ、と足で土の上にさらさらと絵を描いた。土の上に描かれたのは、いかにも英泉の美人画そのものであった。本物だと分かるや否や、国芳は玉の汗の散るほど思い切り頭を下げた。
「いつもお世話になっていやす!」
「いつ世話をした。あーしゃア、あーたを世話した覚えアねえぜ」
英泉が国芳の顔をまじまじと覗いて首をかしげた。
国芳はその首っ玉にかじり付きそうな勢いで、
「世話になるもならねえも、わっちゃア『絵本三世相(えほんさんぜそう)』からこの方、師匠の艶本(つやぼん)全部持ってまさア!」
渓斎英泉の春画 パブリックドメイン美術館
子供もしないようなきらきらした目で英泉に迫った。
国芳が興奮するのも無理はない。英泉の真骨頂は艶本であった。