【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第28話 (10/13ページ)
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なあ」
「それは・・・・・・」
みつは言葉に詰まった。
確かに、八月一日の八朔の日には吉原女郎たちは皆白い着物に身を包み、花嫁のような格好で馴染みの旦那と過ごす。
白無垢を用意するのには法外な金が必要で、みつはまだ当日の客が決まっていなかった。
「ちょいと待ちねえ」
困り果てたみつを見て、英泉を制したのは国芳である。
「確かにわっちゃア素寒貧だ。手前一人じゃ惚れた女に白無垢も花も用意してやれねえ。だが、そう物乞いに服を恵むような英泉師匠の言い方ア気に食わねえ。この女ア京町一丁目岡本屋の花魁だ。わっちのために服も地味にしてくれる、とんでもねえ好い女だ。師匠のような人にゃア渡せねえ」
「分かった。互いに譲れねえのなら、勝負で八朔の相方を決めようじゃねえか」
渓斎英泉はケケケッと奇妙な高笑いを立てた。
「勝負?」
「ああ、絵の勝負さ。日にちは八朔当日だ。それまでに作品を仕上げ、当日に吉原の客の話題を攫った方がこの花魁の相方になる。あーしが勝てば、白無垢の花魁はあーしのもんだ。あーたが勝てば、あーしの金であーたを一夜の花嫁の婿にしてやらア」
国芳は拳を固く握りしめた。なんといっても、相手は人気絵師の渓斎英泉である。
いくらなんでも敵わねえ、そう思った矢先、
「国芳はん、その勝負、受けて」。
凛と声を張ったのはみつだった。
「八朔が近いというのに旦那が決まっていないのは誰でもない、あたしの身の詰まり。だから、この勝負受けて欲しいの。でも、一つだけ約束して」、
「絶対に、負けないで」。