品川区の善福寺に残る鏝絵で有名な伊豆の長八の非・老害エピソード (5/8ページ)
名人と言われる伊豆長が、こんな鼻曲がりを使っていいのかよう!」と言った。
長八は吉の話を黙って聞いていたが、「おい、吉、よくおいらに教えてくれた。おれはな、伊豆の下田の生まれで、タイといえば、おめえの言う鼻曲がりだけだと思っていた。なるほどなあ。この注文の『魚づくし』はやり直しだい。おい、おっかあ、吉に朝飯でも食わしてやんな!」と奥にいる長八の女房に言ったという。
■イライラが残る人とそうでない人の違い
心理学者の植木理恵によると、ちょっとしたことでイライラしたり、キレて怒鳴ってしまう人ほど、イライラが鬱積しやすいという。40代から80代までの男女に、わざと実験者が失礼なことを言ったり、ナーバスな質問をし続けるという実験を行ったところ、「失礼じゃない!謝りなさいよ!」「何だと!ふざけるな!」などとすぐに反論する人が半分、そして「はあ、そうですかねえ…」「ふーん」と言うか、または実験者そのものを無視して黙っている人が半分だった。それから1週間後、「あのときのことは許せない!」と怒りが固着し、ストレス値が高いままだったのは、実はすぐに言い返す人々だったという。それは、激高した当時の状況、言葉のひとつひとつが自分の記憶にクリアにとどまり、「やっぱり許せない!もっと言ってやればよかった!」などと、怒りがエスカレートし続けるからだという。逆に聞き流したり、無視した人の方が、1週間後には何の怒りも固着しておらず、「そんなこと、言われました?」とあまり覚えていない状況だったという。この実験結果が絶対に「正しい」とは限らないものの、一見、自分が思ったことを即座に言い返す人の方が、ストレスフリー。そして言い返せずに黙って聞いている人の方が、ストレスがたまってトラウマ的なものとなり、常にその人を苦しめている、というイメージがあったのだが、そうではなく、即座に怒鳴りつけた際の怒りの言葉や態度がそのまま、言った本人に跳ね返り、疲れ、傷つき、いつまでも消えない怒りの火種になっているのだという。
■脊髄反射せずに聞いて受け止めて納得した長八
この実験結果を、先に挙げた、伊豆の長八と魚売りの小僧・吉とのエピソードと照合させてみよう。