【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第22話 (3/12ページ)

Japaaan

だがそれじゃあ良い絵は描けめえな」

「ああ。描けめえよ。あれを知らねえことにアな」

国安と国丸のひそひそ声に、芳三郎はすぐ飛びついた。

「兄さん、あれってなんだ!おいらに教えつくんねえ」

二人は顔を見合わせて、

「よし、それならまず、その可愛らしい前髪を落とすが先でエ!」・・・・・・

考えてもみればすでに十六にもなっているものを、勘当されて烏帽子親もおらず、元服という儀式自体すっかり忘れ去られたまま日々が過ぎている。

こうして芳三郎は、急きょ元服することになった。

声を掛けても頑なに顔を出さない両親の代わりに、豊国が烏帽子親になって前髪を落とした。

その日工房に出ていた門弟たちは国貞を除いて全員が顔を出し、元服の儀の一切を見守った。

前髪を落とした芳三郎が顔をあげると、兄弟子たちが自分を取り囲んでにこにこしていた。

「こりゃアなかなか、見れたもんだぜ」

「悪くねえな」

「役者みてえな二枚目よりもちょいと面白えくらいの顔が可愛げがあって女にウケがいい」

「ああ、これア可愛がられらア」

「眉の間にちょいと険のある若い後家さんなんかが、こう、つっと袖を引いて、艶いた声で『あら芳ちゃん』、なんつってな!ガハハ」

「おめえの想像力にはいつも感服すらア」

「筆下ろしはやっぱり吉原(なか)かな。早々に済ませてやらねえとな」

「忙しくなるぜ畜生!」

門弟たちが嬉々として話すのを見て、豊国が嘆いた。

「てめえらア結局悪所の話か。わっちゃアこんな助平養成所を開いた覚えはねえぞ!」

国丸がすかさず手を挙げて、

「父っつぁん!父っつぁんのせいじゃアありやせん。俺たちゃたまたま、本当にたまたま、助平なのが揃っちまっただけでさア」

「そうか!そりゃろくでもねえ偶然だな!」

豊国は苦笑し芳三郎を振り返った。

「芳、良かったな。ここにいりゃア女の事なら滅法心強いようだぜ。

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