【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第22話 (7/12ページ)
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「奴や三番叟やら武者やらが、空を飛ぶのさ」
「お空を?」
「ほんとうにい?」
「変なのお」
くすくす笑いの止まらない二人の禿を見ていると国芳まで楽しくなって、三人で笑った。
「それ、やるよ」
国芳は二人分ちゃんと描いて、幼い禿たちにそれぞれ与えた。これが、国芳としての初めての絵になった。
「どうだった、首尾は。楽しかったか!?」
帰りがけの土手八町で兄弟子たちに囲まれて尋問のように訊かれた時、国芳の脳裏には女との褥の事よりも夜中に子どもと交流したその記憶が鮮明に浮かんだ。
国芳は笑み笑みして、
「あい、楽しかったです」
と答えた。兄弟子たちは、そんな事とも知らずに手を叩いて喜んだ。
その翌年の正月二日。・・・・・・
「凧やア、凧」
国芳は初めて凧売りに身をやつし、手製の凧を渋紙張りの籠いっぱいに詰めて、吉原遊廓の門をくぐったのであった。
◾文政八年、一月 (1)「どうも長々と、トンチキ絵師の昔話をお粗末様でした」
綿入りの夜着を着込み、講釈師のように扇子と手ぬぐいを使って話していた国芳は、飽きもせずに聞いてくれた相方に対して深々と頭を下げた。
「へえ、それで兄さんは正月に吉原(なか)で凧を売るようになったんだねえ」
同じく夜着にくるまり火鉢を抱き込んで聞いていた佐吉は、感心したように言った。
「ああ」
あの日から十年余り、いくつかの作品を出したもののまったくと言ってもいいほど芽が出なかった国芳は、だんだん豊国のもとにいづらくなり、工房に寄り付かなくなった。
