【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第22話 (5/12ページ)
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小説
「ただし、ご両親に付けてもらった芳三郎の名に愛着もあろうから、画号の方に残すことにした」
てことは、と兄弟子たちはざわめいた。
「『国芳』。おめえは今日から、『国芳』だ」。・・・・・・
「ヨッ、国芳!」
「よかったな!国芳」
工房の兄弟子たちも、次々に声をかけて祝ってくれた。馴染めば優しい人間ばかりであった。
「さアて、今日は祝宴だ!いいとこ連れてってやらア」
国芳はすうすうと風の通る額に戸惑っている間に兄弟子たちに担ぎ出されて、辿り着いてみればいつのまにやら浅草の裏手、青柳のさやらさやらとたなびく奥の吉原遊廓の門前にいた。
「ここは」
何度か、春の吉原桜や秋の吉原俄の練り物を見に両親と訪れた事がある。
が、今日はそういうためではない。
兄弟子たちは頼もしい笑顔で頷いた。
「金は、俺たちが持つ。成人祝いだ」
女を知れ、というのである。
祝いと言われては無碍にもできず、国芳はままよ、と門を潜った。
一門の行きつけだという見世に大勢で登楼り、馬鹿騒ぎの酒宴ののちに国芳はめくるめく女郎の手ほどきを受けた。
四つの鐘と九つの鐘が続け様に鳴り相娼が眠りに落ちたのちも、初めて女を知った衝撃で国芳は全く眠れなかった。
更に一刻ほど経った丑の刻頃、国芳はこっそり蒲団を抜け出した。
蒲団といっても実家や国直の家にあるようなのとは全く違い、中の綿は倍ほど厚い。
しかもこの吉原では、この時刻になっても行燈が消えない。
しかも生臭い魚油ではなく高級な菜種油であった。
「ここは、竜宮城か」
国芳が立ち上がり、柱や欄間、天井などしげしげとその竜宮城の造りを眺め始めたその時である
「旦那さま」
「うわア」
背後から聞こえた声に驚いて尻もちをつくと、衝立の裏から幼い禿(かむろ)が二人、丸い目をきょろりと覗かせてこちらを見ていた。
少女たちは可愛い声で訊いた。