【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第22話 (4/12ページ)
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見回してみろ、絵筆は二流三流でも、そっちの方面では一流の褌親(ふんどしおや)がずらりと雁首揃えていやがらア」
豊国の言葉に、全員がどっと笑った。
「お前か?」
「アア、違げえねえ。兄さんの事だな」
「俺ア違げえぞ、筆も一流でい」
弟子たちが二流三流の汚名を押し付けあっていると、ついに豊国の雷が落ちた。
「てめえら全員だ!」
「あいすいやせん、お父っつぁん!」
全員が声を揃えて謝った。
「よおし!芳も今日から、俺の描きおろしの艶絵見放題だな!」
お調子者の国安が間髪入れず声を上げた。隣の国丸も、
「俺も引き出しに仕舞ってあるぜ、まだ誰にも見せてないとっておきの艶絵」
顔を見合わせてにやにやする二人は暇さえあれば腕を奮って艶絵を描き、門弟の間で回した。同時に二枚回す時にはどちらの艶絵の評判が良いかという賭けまでして遊んでいる。
「安と丸ア、変な事ア教えるなよ」
「あい、任せてくだせえ父っつぁん!何をどこに差し込むてえところからきちんと順序立てて仕込んで行きますから!」
豊国のげんこつが落ちて、二人は静かになった。
「父っつぁん、しかして芳三郎の名はどうするのです」
「わっちゃアもう決めてるぜ」、
豊国は一呼吸置いて、名をしたためた半紙を開いた。そこにあった名は、
「孫三郎だ」。
ホウ、と弟子たちは声を上げた。
「なんでまた、孫三郎です」
「そりゃアおめえ、丁度わっちの孫くれえの歳だからだ。子どもの歳なら子三郎、孫の歳なら孫三郎」
また皆がどっと笑った。
「父っつぁん、いくらなんでもデタラメすぎらあ。それを名前にしますかねえ!」
「イヤア、これでも随分長い事考えて、あれでもねえ、これでもいけねえと頭を悩ませたんでエ」
親に勘当されて頼れる身内の居なくなった芳三郎を憐れに思い、せめて自分の事を親とは思えずとも祖父のように思って貰いたいという裏に込めた豊国の優しさなど、誰も気付きもしない。