【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第23話 (10/17ページ)
あの子も大きくなったでしょう」
「ああ、本当に・・・・・・!」
国芳は驚嘆した。
おそのが言うにはおきんの手習い事が多く、平素おそのはそちらに付きっ切りで離れられないために、豊国の事は国貞を主とする弟子たちが交代で看ているという。
「女の子は嫁入りまでに色々習わせる事があるから大変です」
「もうそんな年齢なんでやすか」
「ええ、あの人が歳を取るはずです」
さらりと、おそのは豊国の話を出した。
「あの、実は本日は先生の見舞いに・・・」
国芳は、手土産として照降町翁屋太兵衛の翁せんべいを差し出した。佐吉が気を利かせて持たせてくれたのである。
「あら、ありがとうございます」、
あとでお茶と一緒にお出ししましょうね。
おそのはそう言って、細い指を揃えそそとしたしぐさで包みを受け取った。
「あの人に、早くその元気そうなお顔を見せてやってくださいな・・・・・・」
おそのに促され、奥の病床に国芳は通された。
「あんた、国芳さんが戻りましたよ。・・・・・・開けますよ」
おそのが一声かけて、障子を開いた。
国芳は、顔を上げた。
あんなに賑やかだった人が、悲しくなるほど静かな部屋の中央にひっそりと身を横たえていた。
奥に、国貞がまるで通夜のように佇んでいる。彼は床の間に据えられた花器を手入れしていた。芍薬の花が一つ悪くなり始めているのが気になるらしい。
国貞は一瞬顔を上げて国芳を見て頷くと、先生にご挨拶するようにと手振りで促した。おずおずと入った国芳は一人、豊国の枕頭に座った。
眠る師の顔を覗き込み、この人はこんな顔だったろうかと思った。国芳の知っているこのあごはもっと背美鯨のように張り、国芳の知っているこの頬はもっと赤みが差してふくよかで、国芳の知っているこの髪にはもっと艶があり弾けるような生気が通っていたのではなかったか。
「父っつぁん」
豊国は顔の上に国芳の消えいりそうな声が降って初めて、目を開いた。