【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第23話 (13/17ページ)

Japaaan

無頼漢を雇って、国政の帰り道に襲わせたのさ」

「えっ」

国貞と国芳は、同時に呼吸を呑んだ。

「あいつも諦めずに、元の腕を取り戻そうと役者の面なんぞ作って訓練したが駄目だった。筆が荒れて子ども相手のお遊びの面を作って売るのが精一杯の腕になっちまった」

国直がいつかの夜に語った話の真相が、ようやく理解された。

国政の部屋に今も残された無数の面の数々。その面の数だけ国政は努力し苦しみもがいたのである。

(確か、国政の兄さんは鯛兄イに絵を描かなくなった理由を訊かれて、笑いながら『心変わりだ』と・・・・・・)

いつの時も温厚に笑っていたという国政が心奥に燃やしていた激情と執念を思うと、国芳は気が遠のく思いがした。

「わっちは責任を取るつもりで、国政にあの中庭の見える部屋を与えた。何もしなくていい、ただ一生ここにいろと。心根の優しすぎるあいつはわっちに気を遣い、言う通りに工房に残った。本当は逃げ出したい気持ちもあったろう。しかしあいつは何も言わなかった。言わない代わりに、面を作り続けた。それがあいつが通したかったただ一つの筋だったんだろう。わっちゃアそんな国政をそのまましたいようにさせた。憐れで仕方がなかったのだ。わっちを超す腕と称されながら、一夜のうちに全てを失った一番弟子が」

しかし、豊国は落ち込んでばかりもいられなかった。並行して問題が浮上したのである。国政に代わる歌川流の後継者を、一から育てなければならないという大きな問題であった。

豊国は焦った。

腕も確かで同門の後輩への面倒見も良い国政がいれば、歌川流は安泰だとある意味胡座をかいていたものが、突然頼みの柱を無くしてしまったのである。慌てて二番弟子の国重を養子にしたり、他の弟子への指導をいきなり厳しくしたりとその動揺は相当のものであった。

そんな時目に止まったのが、

「国貞、おめえだ」。

国貞は、初めから利発で華やかな匂いを持っていた。絵の才覚の匂いであった。加えて生真面目な性格と、絵にかける熱情、向上のために努力を惜しまない負けん気の強さが全て揃っていた。これは大物になるかもしれない。豊国は決めた。

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