【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第23話 (12/17ページ)
痩せ衰えた物凄く寂しい顔のはずなのに、国芳には千日紅の花が陽なたに咲くような明るい笑顔に見えた。
「大体父っつぁんは、わっちの絵なんぞまともに見た事ねえじゃねえか」
「見てたさ・・・・・・」
豊国が滲むように笑った。
「おめえの絵は、いつもちゃんと見てた」
「分からねえよ、あんた、何も言わねえんだもの」
国芳は泣き笑うと、豊国は少し憤慨して、
「おめえらはほんに、どいつもこいつもどうしようもない大馬鹿野郎だから、言葉ばかりを欲しがる」
豊国はふうっと息を吐き、
「国貞」
ふいに、国貞を呼んだ。
「はい」
隠居の翁のように床の間の手入れに勤しんでいた国貞は、びくりと細腰を反らせて振り返った。
「花なんざ後にして、ここに座れ」
国貞が慌てて枕頭ににじり寄ると、豊国は恐らくもうほとんど見えてない目を開いた。
「国貞と、国芳。お前ら二人に話したいことがある」
豊国はそう言ってから、言葉を改めた。
「いや、話さなくてはならねえ事だ」
二人の弟子は、師を挟むように左右の枕頭に座り、膝の上でぎゅっと拳を握った。
「国貞は知っているだろうが、おめえらが入門するより昔から長え間、わっちの右腕は国政だった」
豊国は、突然今は亡き一番弟子の名を出した。
「あいつは言わずとも常にわっちを理解し、どんな時も傍にいた。見込んだ通りの売れっ子になって、一緒に合作もやった。だが、長くは続かなかった。あいつがわっちを超えると言われてしばらく経った頃、国政の成功に嫉妬した弟子の一人に、あいつの腕が潰された。
