【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第23話 (16/17ページ)
技もねえ。
美しさも、ねえ。
だがわっちは、
「宝物を見つけたと思った」。
画像 筆者 鍾馗図は歌川国芳作 Wikipediaより
深く傷ついた豊国には、その絵とその絵を描く腕を持つ少年が宝物のように思えた。
どうしても、その子どもだけは手元に置いておきたいと思った。
「国芳。おめえは、わっちの最後の夢だ」
実際に顔を合わせてみりゃロクでもねえ生意気なガキだったが、おめえを最後の弟子にする事はその時に既に決めていたと、豊国は目を閉じたまま言った。
「芳にだけは、今まで国貞や他の弟子たちにしてやれなかった事、見せてやれなかったもの、そういうものをたくさん教えてやろうと思った。まあ結局、ロクに構ってやれなかったがな」
「父っつぁん、覚えてっか。一度だけ、品川に鯨ア見に行った時の事」
「ああ、覚えてらア。おめえに見せたくって首根っこ掴んで引っ張り出したっけ」
「わっちゃア、あん時父っつぁんに一生分構ってもらったんだ。嬉しかった」
そうか、そうだったかと、豊国は微笑(わら)った。
「国芳」、
国芳は、慌てて豊国の右手を取った。肉が削げ、皮膚が余って皺だらけになったその手を今すぐ取らないと、豊国がどこかに行ってしまいそうな気がした。
「決して、傍観者になるな」
「ボウカンシャ?」
「傍らで見ているだけの人間の事だ。おめえはこの国貞を傍観するだけの人間になるな。お前も一緒に歌川派っつうでっけえ鵺(ぬえ)の手足になって、歌川の看板を背負え。身体全部で、時代と世の流れを捉えろ。そしてこの国貞や他の奴らを支えてやってくれ」
「うん。