【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第25話 (2/9ページ)
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「あ?」
「前は上手くてもムッと呼吸を詰めてる絵ばかりだったが、最近の芳さんの絵は、人も生き物も花も波も、皆息衝いてやがる。今に紙から飛び出てどっかに行っちまいそうだ」
「ほんに、一銭にもならずに描いたそばから全員どっか行っちまいやがらア」
国芳は佐吉の誉め言葉をすぐに茶化した。
「ねえ、真面目に褒めてるんだぜ。芳さんの腕アどんどん進化してるんだから、きっと今に売れっ子になるさ。ホラ、描くのに飽きたんなら今のうちからこの紙に花押を書くか、手形でも押してよ。有名になったら一気に売り出すからさ」
現金なこの青年はどこからか大量の半紙を出してきて、寝転がる国芳の顔の前にどさりと置いた。
「こんべらばアが、よしゃがれ手形なんざア。相撲取りじゃあるめえし」
ウウンと足を延ばした時、ガタッと足が机にぶつかり、机に積み上げてあった本やら帳面やらがバサバサと国芳の上に崩れ落ちてきた。
「痛ててて!」
国芳は突然足に降りかかった痛みに咆哮し飛び起きた。降ってきた本どもは、少しずつ貯めた金で方々探し回ってようやく手に入れた蘭書や唐本や絵手本である。止まることのない国芳の学びの姿勢には佐吉も舌を巻いていた。まず「解体新書」という蘭方の医学書を手に入れ、人体の構造を骨格から改めて学びなおし始めた。
解体新書 Wikipediaより
人物描写の向上のためである。その他にも銅板画の蘭書、唐本、葛飾北斎の絵手本など、少しでも金が入るたびに次々に手に入れ、前年の十五夜の月見に描いた「雪月花」の「月」よりもなお面白い絵を生み出すために、ひたすら暗中模索している。