【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第25話 (5/9ページ)
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のう三助」
「あい!あい!」
「旦那ア!そこをなんとか・・・・・・」
「ほんに申し訳ございませんけどね、今は手前共の力不足で、ちょうど上手い具合にご紹介できる企画というのが、本当に無いのですよ。本日のところはご勘弁くだせえやし」
画稿ごと突き返されて、国芳はぐうの音も出なかった。
「そうですか」、
加賀吉が突き出した紙を、国芳は静かに受け取った。弟子が引き際が悪いとなれば豊国の名に傷がつく。
「仕方ねえ。そういう事なら今日は引き揚げやさア。またいい話が来たら、ぜひ歌川国芳を使ってやってくだせえ。どうも、忙しい所を邪魔しちまって、相すいやせんでした」
国芳は茶を勧められたのも断って、すごすごと引き揚げた。
こういう時、本当は一杯ひっかけて帰りたいところだが懐が寒しくてそれもできない。
代わりに両国橋の上で、しばらくぼんやりする。
両国橋は、江戸の町を鍋で濃く煮詰めたようなところである。
馬鹿に大きな唐辛子の張り子を背負った唐辛子売り、天秤に野菜やら魚やらを担いだ棒手振り、子犬のようにじゃれ合う町娘、肩車して笑いあう幼子と父親、美人局、相撲取り、すり、泥棒、知った顔に知らぬ顔、ありとあらゆる人間が流れてゆく。
橋の中央で欄干にもたれてぼうっとそれを眺めていると、腹の底からなんだかわけのわからない元気が湧いてくる。
この町では、どんなに馬鹿げた大道芸でもその日啜るたった一杯の酒のために本気でやる。江戸の人間は真剣にふざけるのが得意だ。
馬鹿馬鹿しいと思う。だが馬鹿馬鹿しいほど、いとおしい。
誰もがそう思っている。
通行人は両国橋で日々披露される大道芸を馬鹿馬鹿しいと思いながらもくすっと笑って、一銭でも二銭でもお金を落としていく。くだらない事に一生懸命なその心意気を買うのである。
しばらくそれを眺めていると、橋の下の川から、国芳の耳に女の嬌声が飛び込んできた。