【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第25話 (9/9ページ)
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「それア、傍観者のいうことだ」
国芳は顔を上げもせずに言った。
「ボウカンシャ?」
佐吉はきょとんとしたが、突然「あ!」と素っ頓狂な声を上げた。国芳は思わずびくりと筆を止めた。
「何だよ急にでけえ声出して」
国芳は、怪訝そうに顔だけ振り返った。
「思い出した!」
「なに」
「芳さんに、頼みてえ仕事。・・・・・・」
佐吉は何かを含んだ目で笑った。なんだ、と国芳が懐に手を突っ込んで胸元を掻きつつ訊いた。
「また冗談か洒落をかましたら、いよいよぶん殴るぜ」
「あのね、おいらの背中に、龍の絵を描いておくんなよ。刺青(ほりもの)を入れてえんだ」
「何!」
いきなりなに抜かしやがる、と国芳は驚きのあまり半分怒ったように言った。
「良いじゃねえの、芳さん」
「おめえみてえに肌の白くて綺麗な男が、何でまた刺青なんて思い付くかねエ」
「何でって、格好良いじゃない」。
佐吉が、涼やかに微笑んだ。
この男はいつもそうだ。
怖いという感情を母親の腹の中に置き忘れたらしい。涼やかな目でさも楽しそうに、とんでもない大きな事を突然言い出す。
「蒸し暑くなる前にやっちまいたいんだ。暑くなると、下手すりゃ肌膚が腐るっていうから」
ねえ、駄目?と拝むようにする佐吉に、国芳はふっと笑って頷いた。
「いいぜ。」
「ほんにかえ!?断られるかと思ったア」
「断るもんか。他の絵師にお前の身体汚されるくれえならわっちが描くさ。それに」、
「それに?」
国芳の目に、ふうっと強い光が宿った。
「今なら描ける気がすらア」。・・・・・・
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