【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第25話 (3/9ページ)
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小説
歌川国芳「あふみや紋彦」国会図書館蔵
しかし、
「付いてねえ」。
崩れた本の山を再び積み上げながら、国芳はそうぼやく。ここにきてとうとう天から見放されたかと思うほど、仕事がなかった。
最後の本を積み上げようとした時、ひらりと一通、手紙が落ちた。
拾い上げると、穴が開くほど読み返した豊国の遺言であった。
葬式の後、兄弟子の国貞から渡されたのである。文面はいたって短い。
「色んな版元におめえの事を頼んでおいたから、時期に仕事が来るはずだ。それまでは焦らず真面目に精進せよ」という内容である。
期待に胸を膨らませて半年、膨らんだ胸もしぼみ切るほど、まったく仕事の気配すらない。チクショウ、父っつぁんも大した事ねえな、と段々豊国にまで腹が立ってきた。
「アー!もうやってらんねえ!」
「どうしたの、芳さん」
ビリリと手紙を破く音がして、佐吉は愕いて国芳を見上げた。当の国芳は既に飛び起きて褞袍に三尺帯をキュッと締め直し、
「ちょいと今から青盛堂に仕事くれって頼んで来る!」
言うが早いか、画稿数枚を引っ提げて佐吉の家を飛び出した。
向かうは一番近所の地本問屋、両国米沢町の加賀屋吉兵衛が営む青盛堂である。
地本問屋や絵草紙屋の軒先というのは、春は花、秋は紅葉で飾ったように年中美しい錦絵が吊されており、通りかかる子どもが思わず足を止めてとろんと見とれるほどに華やかなものだ。