【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第25話 (8/9ページ)
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しかしそんなろくでもない都に生きるからこそ、この足で踏ん張る意味がある。
この手で描き続ける意味がある。
この目に焼き付ける意味がある。
(わっちゃア傍観者などに、決してなるものか。・・・・・・)
ふと、豊国の言葉が甦った。自分が自分を諦めた瞬間に、「傍観者」が生まれる。
そんなものになってやるものかと思う。
この時代の、傍観者に。
この江戸の、傍観者に。
「絶対そんなものにゃ、ならねえ」。
その言葉は、今ようやく国芳の中に生命を得て輝きはじめた。
国貞の兄さんみてえな叶うわけのない天才がいるこの江戸で、みつが待つこの江戸で、大好きな人たちも大嫌いな人たちも皆が生きるこの江戸で、自分の目で見、自分の足で立ち、大手を振って歩いてゆく。
何一つままならないこの江戸で。
(やってやる。・・・・・・)
両国橋の真ん中で、国芳は誓った。
かならず己の道の上で笑って生きて、生き抜いてゆくと。
「わっちゃアかならずやってやる!」
国芳の叫び声に、唐辛子売りも河童も大人も子どもも皆が振り返った。その視線の先で、国芳はチャッと尻をからげ、両国橋から韋駄天のごとく駆けだした。
「おみつ!待っていろ!この空の色を、必ずめえにも見せてやらア!」
目指すのはただひたすら、光の差す方である。
・・・・・・
「たでえまア!」
「おかえりなさい、芳さん」
かまちにどっかり座った国芳を、佐吉はいつもの涼しい笑顔で迎えた。
「どうだった、でっけえ魚にありつけそうかえ?」
「いんや、さっぱりだ!」
そう言う国芳は少しも落ち込む様子はなく、飛び出す前と同じ場所に腰を据え、猛然と絵を描き始めた。佐吉がそんな国芳の背後で、生まれつき口角のきゅっとあがったくちびるを開いた。
「ずっと訊きてえと思ってたんだけどさ」、
芳さんって、
「なんで全然めげねえの」。