【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第28話 (13/13ページ)

Japaaan

所詮あーたも狐と同じ、豊国の甘い汁啜る生半可ってこったな」

 

英泉のねじけた言いっぷりに、国芳はさすがに目の色を変えた。

 

「師匠、それ以上師匠を貶すなアやめてくれやせんかねえ」、

 

「ええ、何かい。やんのかい」

 

英泉の扇動で、国芳は立ち上がった。

 

「ああ、やってやらア」、

 

みつは国芳の燃え立つ瞳を見て、あっと思った。この人はこんな強い眼をする男だったのか、と。

 

「そちらが持ちかけた絵の勝負、絶対エ負けねえ。めえにだきゃ、みつは渡せねえ」。

 

英泉は、フッと不敵に笑って頷いた。

 

「だからあーた、あーしと勝負するなアいいが、何が得意なんだえ」

 

「わっちゃア、ふらふらでさア」。

 

「ふらふら?」

 

英泉は眉を潜めた。

 

「ヘエ、英泉師匠は美人画、豊国師匠は役者絵、大勢いる兄さんたちにも、どれか一つはこれはという抜きん出た分野があるてえもんでしょう。それなのにわっちにゃアこれがっつうのがなくて、ふらふらしているんです」

 

ふらふらか、と英泉は口の中で呟き、一瞬微笑した。しかし直ぐに喧々として、

 

「あーしを舐めるなよ。てめえの道ゆきも決まらねえふらふらと、何の絵で勝負をしろってえんだい」

 

身を乗り出した英泉を前に、国芳はぺろりと上くちびるを舐めて笑った。

 

「水滸伝。・・・・・・」

 

「え?」

 

「美人画でも役者絵でも何でもいい。勝負の画題は、今流行りの水滸伝でやりやしょう。」

 

国芳の少年のような綺麗な眼が、きらりと陽光に反射した。

トップ画像:渓斎英泉「満月」

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