【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第28話 (11/13ページ)
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「みつ・・・・・・」
「国芳はんなら、大丈夫よ。絶対に」
国芳は、固く頷いた。
「分かりやした。英泉師匠、その勝負受けやしょう」
「よし、決まりだ。あーた、クニヨシってえのかい?聞かねえ名だが、何を描くんだい。美人画かい」
「うんにゃ、美人画ア兄弟子にめっぽう得意なのがおりやす」
「ほう」
「それが国貞っつう狐みてえな奴でして・・・・・・」
「クニサダって、あのクニサダか?」
英泉がその名前に反応した。そしてその名を口にする時に一瞬ぴくりと眉を顰めたのを、国芳は見逃さなかった。
「ええ、まあ、江戸のクニサダの中じゃあ一番知られたクニサダでしょうね」
「するってえと、あーた、豊国先生のとこのお弟子さんかい」
「そうであすよ、一応。父っつぁんは早春(はる)に死んじまいやしたが」
「あーたさっき、国貞の事オ狐って言ったね」
「エエ、だって兄さんは、狐ですから」
国芳は指で自分の目を上に釣り上げ、狐のようにしてみせた。英泉の方は思い切り、ケケケッと底意地悪い歪んだ笑い声を上げた。
「そうかい、そうかい。実は、あーしゃアその狐が大嫌いでね」
本人の言う通り、英泉がこの世で最も忌み嫌っている人間こそが国貞であった。
二人は同じ頃に売れ初め、二人とも美人や役者をよく描いた。完全に競合しており、英泉にとって国貞は邪魔で仕方がなかったのである。