【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第31話 (4/19ページ)

Japaaan

是非ともお願えしてえところです」・・・・・・

・・・・・・

舌の回る江戸っ子同士きりのない応酬を重ね、本所緑町まで来ると先導する英泉はぴたりと足を止めた。

「ここだよ」

「ここですか」

散々そういう所に棲み続けてきた国芳が言うのも何だが、今にもぺしゃんこに潰れそうな荒屋(あばらや)である。

英泉が戸をガタピシ言わせながらなんとか開き、

「おそようございます、善が来ましたよオ!」

奥に向かって本名の善次郎を名乗ると、

「うるッせえ!!聞こえてらア!!」

倍大きな怒鳴り声が返ってきた。

英泉は動じる事もなく、フンフン鼻歌交じりに土間に踏み込み、下駄を揃えた。国芳がどぎまぎしながら英泉に続いて上がると、六畳ほどの居間と奥にもう一部屋あるようだった。

(うわ・・・・・・)

国芳が思わず一歩後退りするほど、居間の床には描き損じやら煙草の灰やら墨の擦りかけやら、あらぬものが散らばっている。そこを踏み越えて奥の間を覗くと資料の山があり、その傍らに半紙を六枚も張り合わせた見事な花魁図の下絵がそのまま床に投げ出されていた。そのまた奥に丸く盛り上がった夜着があって、怒声の主はその中に籠っているようであった。

英泉は気にせず飄々と話し掛ける。

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