【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第31話 (2/19ページ)
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どうせ暇だろう」
「暇っちゃア暇ですけど、人ですかえ?嫌だなあ」
人見知りの国芳は眉根を寄せた。
「安心しやがれ、人っつうより化け物だ」
「もっと嫌だよ」
恐々とする国芳を、英泉は急かした。
「ホラ、早く出るぜ」
「そこまでわっちに会わせてえ奴たア、いってえ誰なんです」
「もう一人の、《ふらふら》さ」
ケケケッといつもの奇妙な笑いを英泉はこぼした。
「《ふらふら》?」
「ああ。あーたみてえに、どれが得意ってのを決めねえでふらふらしている絵描きを、あーしゃアもう一人知ってるのさ」
「その人に、今から?」
「ああ。会わせてやる。だから酢の蒟蒻の言わずに付いといで」
英泉は足元に落ちていた国芳の絵を何枚か抱えこみながら言った。
国芳は褞袍一枚に三尺帯の出で立ちで、英泉に付いて冬空の下に出た。
冷えきった空気を吸うと鼻がつうんとして、いよいよ冬になりやがったナと国芳は思った。
この季節らしい澄み渡るほどの晴天である。