【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第31話 (5/19ページ)
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「鉄さん、今日はあーたにどうしても会いてえってえのが居てね・・・・・・」
会いてえどころか、こんなかび臭え所からとっとと帰りてえやいと思いつつ、国芳は夜着の中の人物に恐る恐る近づいた。
「あ?」
夜着がずるりと剥けて、中から顔が覗いた。
出てきたのは、頭髪は白くそそけ立ち、眉間のあたりにひどく険のある皺深い老人であった。
老人は、国芳を一目見るなり、
「春画の依頼なら、他を当たれ」
英泉は噴き出して、いやいやと手を横に振った。
「こいつを脱がせて春画を描けってんじゃねえんですよ。こいつア、絵描きだ」
一瞬、間が空き、
「こいつが?」
「そうさ。こいつアこんな可愛い面アしてるが、中身はとんだ伝法ですよ。めっぽう面白え絵を描くのさ。こねえだ、あーしと勝負するつって水滸伝の豪傑を百八枚も描いたなア、こいつです」
そうか、と老人は煙草盆を引き寄せて頷いた。彼の耳にも、八朔の吉原の大勝負は及んでいるらしい。今しかないとばかりに、英泉が慌てて持ち込んだ国芳の絵を老人に見せた。
「ふうん」
老人はその絵を手に取り、パラパラめくりつつ表情も変えずに鼻から紫煙を吐き出した。