最終話【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第33話 (4/15ページ)
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小説
金子(かね)も出来た。
加賀屋から支払われる水滸伝の画料に加え、実家の実父母も国芳の成功を喜んでまとまった祝い金を出してくれ、みつを身請けするだけのものは手元に用意された。
更に国芳はみつを迎えるために、父の協力を得てたった一枚の仕掛を染め上げた。三枚の裾にはふき綿をたっぷり詰め、背中一面に豪奢な黒龍を大きく配した見事な花魁の仕掛である。色の見えないみつにもはっきり分かるように、黒の濃淡のみで見事に龍を染めあげ、裾の部分だけ緋色地に花色染めで輪っか模様を配した。
「女版、九紋龍史進だ」
国芳は満足に頷いた。
誰もが振り返る、美しい最後の花魁道中が目に浮かんだ。
みつがようやく、自分のものになる。
そう思うだけで胸が熱くなり、人知れずその仕掛を抱きしめた。
・・・・・・
そうして訪れた文政十年正月二日。
女郎たちの仕事始めの今日、初めてみつと出会ったこの日を選んで、国芳はついに正門から堂々とみつを迎えに行った。
身請け金と豪華な仕掛を抱えて。
はやる心を、抑えかねながら。

・・・・・・
なのに。
それだというのに。
「なんで、めえだけが居ねえんだよ・・・・・・」。
長い長い永遠の夢が、千切れて落ちて、泥々に踏み付けられた。
ぼろぼろと落ちる涙の行き場もない。
みつが、死んだ。
客の子を孕み、無理矢理鬼追い(堕胎)したのち体に力が入らなくなり、床から上がれぬまま衰弱して死んだという。
国芳は、膝からその場に頽(くずお)れた。
・・・・・・
「逝っちまったよ」
年の瀬に、さ。
岡本屋のお内儀が、がらんとしたみつの部屋の中央にへたりと力なく座り、障子窓の外を見ながら言った。