最終話【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第33話 (6/15ページ)
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小説
嵩岳堂主人「生写四十八鷹 じゆりん 椿(部分)」国立国会図書館蔵
蒼白な国芳は、女の紅のように赤い椿を受け取った。
指が、震えた。
聞けば聞くほど、ぞっとする。
呼吸も上手くいかないほどの孤独と恐怖が国芳を締め付けた。
嫌だ。
嘘だ。
これが現実な筈は、ない。・・・・・・
そういえば、とお内儀が行李(こうり)の中から何かを取り出した。
「あの子の行李の中から、こんなものが出てきたよ」
お内儀が取り出したのは、今までに刊行された「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」であった。一つも欠ける事なくすべて揃っている。
「若い衆の直吉が紫野のためにせっせと小間使いに出てると思ったら、全部あんたの絵を買っていたんだねえ」
さらにその下から何か出てきた。
三年前の今日、国芳がみつに出会った日に手渡した史進の凧であった。当時は自信たっぷりだったが、今見ると確かに史進の描写が拙くぎこちない。構図も明白に豊国の模倣である。これではみつがつまらないと感じて当然だ。
「この凧、見覚えはあるかい」
「・・・・・・。」
「そうかい。違ったかい」、
お内儀は淋しそうに言った。
「あの子、なんの願いを掛けていたんだろうね」、
こんなぼろぼろの凧に。・・・・・・
国芳はその瞬間に部屋を飛び出していた。丹精込めて染め上げた重い仕掛を抱えて、引きずるようにしながら。
・・・・・・
嘘だ。
みつは充分に苦界で苦しんだのだ。
これからは、良い事ばかりが起こる筈だ。
きっと、おみつはどこかに隠れている。
きっと、生きている。