最終話【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第33話 (3/15ページ)

Japaaan

「通俗水滸伝豪傑百八人之一個 扈三娘一丈青」大英博物館蔵

版元の加賀屋が抱える彫師摺師だけでは増刷が追いつかなくなり、他の地本問屋から腕の良い職人を借り出した。

初版の九紋龍史進(くもんりゅうししん)、花和尚魯智深(はなおしょうろちしん)、黒旋風李逵(こくせんぷうりき)、少し後に加えて扈三娘一丈青(こさんじょういちじょうせい)、行者武松(ぎょうじゃぶしょう)の五人の豪傑の版木は三度も彫り直した。まさに嬉しい悲鳴である。

「通俗水滸伝豪傑百八人之一個 清河縣之産武松」大英博物館蔵

この異例の事態を受け、加賀屋は初版の五枚に続いて他の豪傑たちを順々に売り出した。それでもなお「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」は飛ぶ鳥を落とす勢いで売れている。それまでの「揃物」といえば三枚ほどで一揃いしたが、国芳の通俗水滸伝は浮世絵を何十枚規模で揃えて集めるという新しい楽しみを世に広めたのである。

今までに経験のない反響の大きさにほくほく顔の加賀屋吉兵衛は、

「百八人、全部、描いちまうか!」

などと言い出した。

まだ先の事は分からないが、

「いいですよ」

と国芳は答えている。

彼の中には既に次から次へと新しい構想が湧き出していた。水滸伝の豪傑たちが噴水のように頭の中を渦巻き、描いてくれと叫んでいるのだ。どれだけ大規模な企画になろうとも自分は応えられるという自負が、国芳にはある。

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