最終話【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第33話 (10/15ページ)
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これを」、
国芳は抱えていた仕掛を差し出した。
「これを、羽織っていけ。わっちが染めた・・・・・・」
「国芳はん」、
出逢った時のままの、少女のような澄んだ声が、国芳の胸にすとんと落ちる。
「ありがとう」。
みつは国芳の染めた黒龍の仕掛を肩から羽織った。
「綺麗だ。おみつ、本当に綺麗だよ・・・・・・」
涙と洟を散らして褒める国芳に、みつは淡く微笑んだ。そして龍のうねる背を向け、振り返る事なく川の彼方へするすると進み始めた。
国芳は思わず手を伸ばして叫んだ。
行くな。
行くんじゃねエ。
「待っつくれ」、
行くな。
おみつ!
国芳は欄干から身を乗り出した。
「行くな!」
行くんじゃねえ。
わっちを一人にするのか。
もうちっとでいい。
もうちっとでいいから、傍にいておくれ・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
どれほどか、時間が経った。
「兄さん!」
一人の少年が、橋に向かって叫びながらパタパタと駆けてきた。
欄干から身を乗り出していた国芳は一気に意識を引き戻されるようにゆっくりと声の方に顔を向けた。
目が合った瞬間、天から舞い降りたような美しい少年が円(つぶ)らかな目を更にまん丸にして国芳に縋り付いた。
「兄さん、大丈夫ですか!」
「・・・・・・。」
「あたし、そこの船宿の者です。たまたま二階から窓の外を見て、兄さんを見つけたんです。あの、邪推ですけど、飛び込もうとしてるんじゃないかって・・・・・・」
「・・・・・・。」
「あの、」
・・・・・・
「なアに、心配ねえさ」、
国芳はおろおろと狼狽する少年の身体を振り払った。そしてひらりと欄干から身体を離し、
「わっちゃア、生きる」。