【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第29話 (12/12ページ)
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・・・・・・」
男のくちびるがかすかにそう動き、そしてふっと柔らかい笑みをこぼした。
そして男はふらりと、地面にくずれ落ちた。
「国芳はん!」・・・・・・
みつは直吉の肩から手を離し、三枚歯の高下駄も、たっぷりふきの付いた真っ白な仕掛けも脱ぎ捨てて、ふわりと男の方に飛んだ。
「綺麗だよ、おみつ。白無垢、ほんに綺麗だ」・・・・・・
みつが抱き起こすと、男はそんな事を言った。
どれほどこん詰めて描いたのだろうか、その手は変形したようにたこが膨れ上がり、皮が破け血がこびりついていた。寝食もろくにしていなかったのかひどくやつれて頬はこけ、顔が土色をしていた。
男は上がらない腕でみつを抱きしめようとした。
「国芳はん。ありがとう。ほんに、ありがとう・・・・・・!」
みつの涙に誘われて、国芳の絵を掲げていた多くの見物人も涙を落とした。
引手茶屋の二階の窓に行儀悪く腰掛けて、静かにその様子を見下ろしていた渓斎英泉が、ぼそりと呟いた。
「コリャア、負けちまったな」。・・・・・・
あーしも頑張ったんだがねえ、と英泉はケケケッと妙に愉快そうな笑い声を立てた。
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