【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第29話 (4/12ページ)
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小説
英泉の不戦勝である。
みつはついに、英泉と契りを結ぶ。
「もし姐さんの白無垢を見たら、あの人は何て言うだろう。喜ぶだろうね」
国芳の事を、美のるがそんなふうに言った。
みつは何も答えずに静かに美のるに微笑みかけ、子どものような細い手で妹の手を握った。
「姐さん」
美のるの目から涙がぽろぽろところげ落ちた。
「なあんで美のるが泣くのさ。笑って。ね。泣き顔じゃ、折角目尻に差した紅が流れちまうよ」
「だって、姐さんが泣かないから。・・・・・・」
駄々っ子のように首を振る美のるの顔を無理やり押さえて目元を袖口で拭ってやると、美のるは泣き笑いになった。それを見たみつは大きく頷いた。
「うん!やっぱり笑った方が可愛い。さ、早く化粧直して着付けを手伝ってつくんな」
そうだね、と美のるは頷いた。
「今日は姐さん、花嫁さんだものね」
あたしも、とびきり綺麗にしなきゃね。
(花嫁、か)。・・・・・・
みつは目をしばしば瞬いた。
自分の事ではないように、遠い響きだ。
花魁だなんだと肩肘張って見せても、女郎には、その言葉は眩しすぎた。
化粧が済み、美のるの手を借りて最後に白無垢に袖を通そうとした時、うわあっ、と廊下から叫び声がして、ドタアンと人の転ぶ音がした。今のは、誰が聞いても遣り手の声だ。